いつかは村上作品を読んでみたいと思ったことはありませんか。
私は村上春樹さん(以降は敬称略)の作品をずっと前から読み終えてみたかったのです。
これではまるで村上作品を手にしたことがないように聞こえますが、そうではありません。何度か手に取り、そして挫折してきました。
それでも一度でいいから村上作品を完読してみたいと思っていました。日本のみならず世界各国で翻訳される彼の作品。村上作品を読んだことがない事実が、教養のなさを示しているような気持ちにさせていたのです。
しかしそんな私でも完読できる村上作品についに出会えました。それが「パン屋を襲う」です。
パン屋を襲うの楽しみ方(多分ネタバレなし)
本屋や図書館に通ってはいましたが、この作品は初めて目にしました。そして目にした瞬間に「これは完読できる…」と思ったのです。なぜならあまりにも文章量が少ないから。
私は読書時間を記録しているのですが、たった38分で読み終えることができました。これでも完読したことにはかわりない…
「殺っちまおう」と相棒は言い、「もう一度襲うのよ」と妻は言った――。空腹に耐えかねた「僕」と相棒が、包丁を忍ばせ商店街へと向かう「パン屋襲撃」。異常な飢餓感に突き動かされた「僕」と妻が、午前二時半の東京を彷徨う「パン屋再襲撃」。村上春樹の初期作品として名高い二篇が、時を経て甦る! 改稿にともないタイトルを一新、ドイツ気鋭画家のイラストレーションと構成するアート・ブック。
パン屋を襲う
この本は絵本のような構成になっていてほぼすべてのページに挿絵が入っています。絵本と入っても子どもが見たら泣き出してしまいそうな個性的な絵です。
この毒々しい絵が文章によくあっていました。村上春樹の作品では現実世界は進まないのに登場人物の思想ばかりが膨らんでいくことがしばしばあります。その思想の描写と挿絵が非常にマッチしており、より奇妙な感覚を生み出しているのです。
完読できたポイントである薄さも非常に良かった。
先程も述べた「思想ばかりが進んでいく描写」も最初は楽しめるのですが、段々とうんざりしてきます。バイキングで取り過ぎたケーキを食べているような気持ちになり、今まで最後まで読み切ることができませんでした。
しかしパン屋を襲うではおいしく食べているうちに作品が終わってしまいます。腹八分目で満足して本を閉じたときは爽快感がありました。
また私が読んできた別の作品の主人公たちは大体にして性欲が強い男ばかりでした。
そのため小説に女性が出てくると「このままベッドに行くのではないだろうか」と心配せねばならなかった。また男性が一人になった際も「非常に丁寧にパンツをおろし始めるのではなかろうか」と身構える必要があったのです。
身構えたところで主人公は想像もしないような方法で性欲を打ち出してくるのですが、このパン屋を襲うではそうした描写がなく純粋に作品を楽しむことができました。これ、ネタバレでしょうか。
村上春樹を完読できたことは非常に嬉しい
こうして私は38分で本を読み終え、はれて村上作品を最後まで読み切ることができました。読み終えてみると作品に対する考え方が変わってきたように思います。これは学生時代に受験で経験したあの感覚に似ていました。
あの感覚とは、最初は苦手科目だったはずなのに一旦コツを掴むと得意科目になっていた、というものです。今がその分岐点にあるような気がしています。これからが本当に村上作品を楽しめるフェーズにあるような気がするのです。
村上春樹は東京奇譚集などいくつか短編作品があるようなので、少しずつこれかも読んでいきたいと思います。もちろん勉強としてではなく趣味として。
いつかは村上作品を読んでたいと思っていたなら、パン屋を襲うがおすすめです。